大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1683号 判決

控訴人 大和企画株式会社

右代表者代表取締役 大志万恭子

右訴訟代理人弁護士 北尻得五郎

同 松本晶行

同 阪本政敬

同 池上健治

同 松本研三

同 布谷武治郎

被控訴人 株式会社よみうりランド

右代表者代表取締役 関根長三郎

右訴訟代理人弁護士 山本栄則

同 西村寿男

同 渡瀬正員

同 飯田秀郷

右訴訟復代理人弁護士 岩出誠

同 木村和俊

被控訴人 株式会社栄

右代表者代表取締役 矢野栄次郎

右訴訟代理人弁護士 横溝一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは、控訴人に対し、いずれも、原判決別紙物件目録記載の店舗を明け渡せ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら各代理人は、いずれも主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次の二以下に掲げるほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、判決書二丁表一〇、一一行目及び同丁裏二行目の「矢野栄治郎」は、「矢野栄次郎」の誤記であるから、そのように訂正する。)。

二  控訴人代理人は、控訴人の従前の占有、その占有を奪われた態様等の主張につき、次のとおり敷衍した。

1  控訴人は、被控訴人よみうりランドから、原判決別紙目録記載の本件店舗(店舗内の什器備品を含む。以下同じ。)を賃借してその引渡しを受け、爾後昭和四九年五月二八日まで従業員石原博、矢野栄次郎ら計一三名を占有補助者として、本件店舗を占有してレストラン営業を継続してきた。

2  控訴人は昭和四九年三月末ごろ手形不渡事故を出したが、被控訴人よみうりランドは、そのころから、控訴人を追い出すことを計画し、手形不渡りを出したが迷惑は掛けないという控訴人の説明に対し、納得の意を表して控訴人を一応安心させながら、他方において、右石原、矢野ら一三名の控訴人従業員と共謀して、控訴人に対し、同年五月二九日店舗委託契約解除の内容証明郵便を発送するとともに、同日及び翌三〇日にかけて右一三名の従業員をして控訴人に退職届を提出させ、本件店舗における控訴人の占有補助者が皆無となる状態を作出した。その後は、同被控訴人が右一三名を占有補助者として本件店舗を占有し、控訴人の代表取締役ないしは従業員が本件店舗に入ろうとしても、同被控訴人は、右石原、矢野らをしてこれに脅迫を加えさせて控訴人の立入りを妨害したものである。

3  被控訴人よみうりランドの右2の所為は、控訴人の本件店舗に対する占有を侵奪したものというべきところ、被控訴人栄は、右占有侵奪の事実を知りながら、会社設立の昭和四九年九月二六日、被控訴人よみうりランドから本件店舗の引渡しを受けて現にこれを占有するものである。仮に右石原、矢野ら一三名の行動が被控訴人よみうりランドの手足となってしたものでないとしても、右一三名は、控訴人の本件店舗に対する占有を侵奪し、爾後自ら独立の占有をしていたことになるところ、被控訴人栄は、右占有侵奪の事実を知りながら、右一三名から本件店舗の占有を承継したものである。

三  被控訴人よみうりランド代理人は、控訴人の右主張1に対し、石原博、矢野栄次郎ら一三名が控訴人の従業員であったことは知らないが、その余の事実は否認する、同2に対し、控訴人が手形不渡処分を受けたこと、被控訴人よみうりランドが委託契約解除の意思表示をしたこと及び石原、矢野ら一三名が退職届を出したことは認めるが、その余の事実は否認する、同3の事実は否認する、と述べ、なお、次のとおり付陳した。

1  被控訴人よみうりランドは、メンバー制のアスレティッククラブを経営し、二階建てのクラブハウスを設置管理する会社であり、控訴人をして、販売委託契約に基づき、顧客の注文に応じて飲食物を提供させていたものである。そして、食堂と呼ばれる本件店舗は、他との仕切りのない二階フロアーの一部であって、鍵も施されておらず、また、同被控訴人の指示により随時他の場所に移動されることになっている。このように、控訴人は、同被控訴人のクラブハウス全体の施設管理に従属する範囲内においてのみ委託販売に携わっていたにすぎず、したがって、本件店舗に対し独立の占有を有していたものではない。

2  前記販売委託契約には、控訴人の経営が悪化し、支払停止、仮差押え・仮処分・競売等又は破産・和議・会社更生の申立てを受けたときは、被控訴人よみうりランドにおいて契約を解除し得る約定があるところ、控訴人は、昭和四九年四月ごろから経営不振に陥り、ついに手形不渡事故を出して倒産し、従業員の給料も支払えない事態となり、次いで他の債権者から仮差押えを受けるに及んだので、同被控訴人は、右約旨に基づき販売委託契約を解除したものである。

四  被控訴人栄代理人は、同被控訴人は、控訴人が占有侵奪と主張する事実関係とは何らの関連もなく、被控訴人よみうりランドとの新たな契約に基づき食堂部門の販売委託を受け、本件店舗内で営業しているものである。

五  《証拠関係省略》

理由

一  まず、控訴人が本件店舗に対し占有を有していたかどうかにつき判断するに、控訴会社代表者の印影がその代表者印によることにつき争いがないからその作成名義部分が真正に成立したものと推定され、その余の部分も《証拠省略》を総合すると、

1  控訴人は、被控訴人よみうりランドとの間の契約に基づき、昭和四八年八月一五日本件店舗内でレストラン「リド」の営業を開始したこと(この点は、右両当事者間では争いがない。)、

2  右契約は、控訴人が、被控訴人よみうりランドの委託により、同被控訴人の事業所よみうりグリーンクラブ内の指定された場所で、同被控訴人の名において飲食物を販売するという販売委託契約であり、その場所として本件店舗が指定されたが、これは同被控訴人の都合により随時他所に移動させられることになっており、また、控訴人は、右委託販売をするについては賃借権、使用借権等の占有権原を有しないものとされていること、

3  右のような契約にもかかわらず、実際には、本件店舗は、厨房施設を伴い容易に他所へ移動し得るものではなく、右厨房部分以外も、他との間仕切りこそないけれども食堂として他の部分と識別することが可能であり、また、控訴人の営業は、単に既製の飲食物を販売するというのではなくして、厨房等の諸施設を利用して料理を作りテーブル、サロン等の顧客に提供するものであること、

4  控訴人は、会社の本店を大阪に置いている関係上、従業員の石原博を支配人格とし、同矢野栄次郎をコック長として、この両名に一任し、ほか一一名の従業員とともに右営業に従事させ、もって、営業遂行に必要な限りにおいて、継続的に本件店舗を専用させてきたこと、

以上の事実を認めることができる。

右認定の事実に徴するに、控訴人の本件店舗における営業は、賃借権、使用借権を有する場合に比較すると、占有支配の態様において右の場合ほど確たるものではないけれども、なお、控訴人は、「自己ノ為メニスル意思ヲ以テ」、右石原、矢野らを占有補助者として本件店舗を占有してきたものと認めるに十分であり、この認定を覆すに足りる証拠はない。

二  次に、控訴人主張の占有侵奪の有無につき判断するに、《証拠省略》を総合すると、

1  控訴人は、昭和四九年四月ごろ手形不渡事故を出し、次いで同年五月二二日ごろ他から仮差押執行を受けたこと、控訴人に対し、被控訴人よみうりランドは、同月二九日前記販売委託契約解除の内容証明郵便を発し、前記石原、矢野ら一三名の従業員は、右同日及び翌三〇日にかけて退職届を提出したこと(これらの点は、右両当事者間では争いがない。)、

2  控訴人においては、その代表取締役大志万恭子が、右手形不渡事故及び仮差押執行のあった後、被控訴人よみうりランドに赴き事情を説明したが、同被控訴人から、控訴人とはいったん解約するが別会社を作って本件店舗の営業を継続することはできないかと言われたので、従業員とよく相談すると返事し、右石原、矢野と話合いをする機会を持とうとしたが、右両名は、経営行詰まりの控訴人に見切りをつけ種々口実を構えて取り合わず、そのうちに右1のように退職届を提出した上、他の一一名とともに本件店舗を占有して営業を継続するに至ったこと、

以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右石原、矢野らの行動につき、被控訴人よみうりランドがこれらと共謀し又はこれらをそそのかしたことを認めるに足りる証拠はないので、同被控訴人の占有侵奪を認めることはできない。

そこで、残るのは、石原、矢野らの占有侵奪の有無であるが、これらの者が控訴人の従業員として本件店舗の占有補助者であったことは、前記一で認定したところである。そうすると、右に認定した事実関係の下においては、石原、矢野らの従業員は、退職届を提出してその後は占有補助者としてではなく自ら本件店舗を占有する旨控訴人に表明したものと解することができ、他の無関係の第三者が本件店舗に入り込んで来た場合とは著しく事情を異にするものがある。したがって、右認定の態様における占有取得によっては、石原、矢野らが控訴人の占有を侵奪したものとすることはできず、占有侵奪を肯定するためには、石原、矢野らにおいて、控訴人が他の従業員により本件店舗の営業を継続しようとするのを実力で阻止する等占有秩序が力によって破壊されたと目すべき事情がなければならない。この点につき、控訴会社代表者は、当審における尋問に際し、自ら本件店舗に行こうと思って電話をしたが、石原、矢野らから「ただではおかない」などと強く反対されたため断念したという趣旨の供述をしているけれども、右供述のみでは、その電話が果たして脅迫にわたるものであるかどうかにわかに認定することは難しく、ほかには占有侵奪ありとすべき事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって、石原、矢野らの占有侵奪も認めることができない。

三  右二のとおり控訴人主張の占有侵奪の事実が認められない以上、これを前提とする控訴人の本訴各請求は理由がなく、これらを棄却した原判決は相当であるから、民訴法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 田中永司 賀集唱)

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